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住友化学株式会社(以下、住友化学)は環境負荷低減を重要な経営課題として掲げています。この実現に向け、マテリアルリサイクルの推進に貢献するパッケージの単一素材化に向けた開発や、他社や大学とのケミカルリサイクル技術の共同開発を進めています。また、リサイクルされるプラスチックの量と質を高めていくことを目指し、プラスチックの製造・販売を行う住友化学とリサイクル企業が協力して、廃自動車のプラスチックを回収からリサイクル、販売まで一貫して処理できる仕組みを構築しています。

循環型経済のイメージ
今回、この廃プラスチックのリサイクル事業において住友化学とリバー株式会社(以下、リバー社)が協業に至った経緯についてプロジェクトの中心メンバーである自動車材事業部 事業企画管理部部長の松本康介氏(以下、松本部長)、そして炭素資源循環事業化推進室 技術企画チームリーダーの平畠亘氏(以下、平畠TL)にお話を伺いました。
自動車メーカー様からのリサイクル材の品質における現時点のご要望は、「バージン材と同等レベル」です。自動車部品の中でも内装品に使用されるプラスチックについては、特に外観の見栄えが重視されます。
安全性の確保は重要で、破損時に人体を傷つけることのない程度に容易に破損しない衝撃耐久性が必要です。さらに、意匠性を維持するための寸法安定性などの実用性能も重要な要件となります。
これらの品質要求は、どの自動車メーカー様もほぼ共通しています。しかし現状では、リサイクル材を用いたデザイン設計への対応は、国内の自動車に関わるバリューチェーンを構成するメーカー様にとって難しい状況です。
その理由として、国内の自動車・機械・部品メーカー様においては、日本独自の「すり合わせ」文化がモノづくりの基本となっている点です。 限界まで性能を追求する「すり合わせ」型の「モノ作り」では、リサイクル材を使用する設計への対応が難しいと推測しています。
一方、海外メーカーは、開発された材料をいかに使用するかが主題になっています。
リサイクルプラスチックの量確保という課題は、欧州の「ELV規則案」の発表がきっかけとなっています。この規則案では、新車に使用するプラスチックの25%をリサイクルプラスチックとし、そのリサイクルプラスチックのうちの25%を廃車由来にすることが義務付けられています。
これを受け、日本では一般社団法人 日本自動車工業会(以下、自工会)が自主的な目標を公表しました。具体的な数値目標として、2030年にサステナブルプラスチック(サスプラ)の供給量を年間2.1万トン、さらに2035年にはサステナブル材の利用率を15%以上、2040年には20%以上とすることが示されています。住友化学としては、この計画に沿って自動車業界のみならず、広くサステナブルな材料を回収し、市場に供給していくことが使命であると考えています。
なお、この活動は経済産業省が推進するサーキュラーエコノミーの取組みとも連動しています。
環境省が2019年5月「プラスチック資源循環戦略」を発表しました。これをきっかけに、今後のリサイクルビジネスの成長を予感し検討を開始しました。住友化学は、以前からポリプロピレン(以下、PP)の触媒製造とPPの製造、及びPPと他の原料を混ぜ合わせ、新しい物性・機能を持つ樹脂に加工する技術(コンパウンド技術)開発の実績があり、廃プラスチックを入手できれば、長年の製造ノウハウと既存の販売ルートを活用して自動車メーカー様とのビジネス展開が可能になると予想していました。
しかし、廃自動車からプラスチック材をどのように回収するかが大きな課題(弱み)でした。複数の自動車解体業者と会話をする中で、リバー社との出会いがありました。
リバー社は、従来から鉄や非鉄金属などのリサイクル事業を手掛けており、一定量の解体車両を処理できるキャパシティを持っていました。また、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの世界的な動きに対応していかなければならないとの思いから、プラスチックのサーマル処理からの転換を進めたいと考えていました。
住友化学の「廃プラスチックの調達」という課題と、リバー社の「プラスチックのサーマル処理からの転換」という課題を相互補完する形で連携すれば、リサイクルビジネスが成立すると判断し、協業に至りました。
2020年に両社でリサイクル事業の協業検討を開始し、互いの工場を訪問し合い、現場レベルで何ができるかを話し合いました。
2022年夏頃には、リバー社でプラスチック選別装置が稼働を開始し、「これで事業を始められる」と確信し、ビジネスとして実現可能であるという目途が立ちました。
2023年に協業契約を締結し、2024年に住友化学は、リバー社から提供を受けたプラスチック素材を活用し、再生プラスチックを効率的に商業生産するための実証化設備を導入しました。現在、両社は量産化に向けて、工場の改善や設備改造を進めており、2026~2027年の商業化を目指して、準備を進めています。
今回のリサイクルシステム構築にあたっては、最初に住友化学からリバー社へ協業を打診しました。リバー社も事業化への問題意識はあったものの、具体的な方法を模索していたところでした。その時、住友化学から「一緒に事業化しましょう」と申し入れ、協業に至りました。
今回のリサイクルシステムは、住友化学とリバー社が共同で構築したもので、廃自動車の回収から最終的なプラスチックコンパウンドの製造までを一貫して処理できる点が大きな特徴です。さらに、トレーサビリティも確立されており、確実な情報管理が可能です。
この一貫性とトレーサビリティの確保こそが、このリサイクルシステムの強みであると考えています。
住友化学とリバー社の業務提携において、ブレークスルーやターニングポイントは何だったのでしょうか?協業の各ステージで直面した課題と、その解決に至る重要なエピソードをご紹介します。
協業契約の締結時には、多くの課題がありました。主な課題は2つです。
1)住友化学とリバー社で使用する言葉(専門用語)が異なる
2)リサイクルするプラスチックの品質に対する意識や企業文化が異なる
リバー社のような解体業者様は、「トラック1台に、どんな種類のものが何トン入っているか」というように大きな単位で把握されています。一方、住友化学の品質管理は、「どのような種類のものが何キログラム、或いは何グラム含まれているか」という詳細な情報を要求します。さらに、「住友化学に納入するプラスチックに、何々は含まれていてはいけない」など、非常に厳しい基準を提示したため、リバー社には大変なご苦労をおかけしましたが、現在まで良好な協力関係を維持できています。
住友化学とリバー社では言葉や文化があまりにも異なっていたため、まずは業務契約に先立ちNDA(秘密保持契約)を締結し、守秘義務の内容を明確化しました。その後、緩やかな業務提携からスタートし、お互いにビジネス上のコミュニケーションが取れる環境を整えました。この取り組みを通じて、両社の隔たりは徐々に解消されていきました。
業務提携後、住友化学はプロジェクトチームを立ち上げ、「一つの製品を作り上げる」ことを目標に掲げました。その後、複数の分科会を設置し、具体的な課題解決に取り組みました。
プロジェクトの課題としては、前述の品質意識の課題に加え、新たに「自動車ビジネスにおけるマーケティング」という課題が浮上しました。
リバー社は最終ユーザーである自動車メーカー様から廃自動車を買い取る経験はありましたが、それ以外の直接的な取引経験がありませんでした。そこで、住友化学が自動車マーケティングに関するノウハウを提供することになりました。また、両社のモノづくりに対する考え方が異なるため、密にコミュニケーションを取りながら業務改善を進めていきました。
最終的な販売製品はPPコンパウンドであるため、「こうしなければ売れない」という具体的な要望をリバー社に伝え、難しい要求に根気強く付き合っていただきました。
例えば、解体自動車は日本全国から集められますが、自動車メーカー別の割合は様々です。 また、また、メーカーによって、材料の仕様が微妙に異なることが分かってきました。
そのため、「廃プラスチック材料をどれくらい混合してよいのか」、「年式や車種が変わるとどうなるのか」など、懸念点が多くありました。
これらの懸念を解消するため、数百台の廃自動車から回収したプラスチック素材のバラつき具合を把握し、「これくらいのバラつきであれば許容範囲である」という確信を得ることができました。
廃自動車の部品回収方法が、リバー社の解体作業者の主観に依存していたことも大きな課題でした。作業者によって部品を丁寧に取り外す人もいれば、部品全体を強引に剥がす人もおり、回収量や回収率が安定しない状況でした。
当時、住友化学とリバー社のプロジェクトメンバーは、現地工場に足を運び、解体作業の様子を観察しながら、作業者ごとの解体方法の違いをどのように統一すべきか頭を悩ませました。
特に、夏の蒸し暑い中、両社のプロジェクトメンバーが共に汗を流し、試行錯誤を重ねた経験が、理屈を超えた強い繋がり(心のモチベーション)を生み出したと考えています。
今回実施したマテリアルリサイクルにおける技術的な課題は、「異物混入をいかに防ぐか」という点でした。
2022年にリバー社が選別装置を導入した際、純度の高いPPを効率的に回収できるようになりました。住友化学ではさらに微細な異物を除去する工程を実証化設備に追加しました。そして、2024年までに実験機(ラボ)や大規模化した装置を用いて、約1年間をかけていろいろなテストを繰り返し検証しました。
廃プラスチック選別工程の最適化は、リバー社が廃自動車解体時にどれだけ異物を除去できるか、そして住友化学の装置でどこまで異物処理を行うかにかかっています。つまり、リバー社から純度の高いプラスチックを供給いただければ、住友化学での処理はシンプルになり、より高品質なPPを得ることが可能となります。
逆に、この課題はリサイクルコストにも影響します。例えば、リバー社が一定レベルの異物処理を行ったプラスチックを納入した場合、残りの処理は住友化学で行う必要があります。両社がそれぞれどの程度の異物処理を行うか、そのバランスを最適化することが重要だと考えています。
このリサイクルシステムを構築するにあたり、リバー社には大前提として、部品の解体・回収を機械装置で行うという方針があります。
例えば、廃自動車の解体にはニブラと呼ばれる重機を使用し、廃自動車を引き剥がして解体します。そして、金属やアルミ、銅などの金属類(ネジ・配線等)と同様に、廃プラスチック類を回収します。そのため、様々な異物が廃プラスチックに付着してしまいます。
リサイクルシステムを開発するにあたり、回収したプラスチックに付いている異物を処理・選別する作業は、機械に自動で行わせることを基本方針としています。
自動車の解体時に機械装置で回収された部品は破砕後、様々な選別処理を経て、現在はPPのみを回収しています。さらに、複数回の異物除去を行い、再生PPコンパウンドとして自動車部品に使用できるよう品質を高めています。この一連のリサイクルプロセスこそが、住友化学とリバー社のノウハウの結晶と言えます。
日本では、「良質な素材確保と再生プラスチックの商業生産」のような仕組みがヨーロッパのように制度化されていません。そのため、自動車業界内ではリサイクル材を使用する動きは出てきているものの、まだまだ自動車に使用されているプラスチック部品全体への採用には至っておりません。
この問題を解決するためには、二つの方向性が考えられます。一つは、再生プラスチックを使うことのメリットを広く伝え、利用を促す啓蒙活動です。もう一つは、欧州ELV規則案のように再生プラスチックの使用を義務付ける制度を確立することです。今後数年間で、これらの解決策について議論が進められると予想されます。
さらに、廃自動車由来の再生プラスチックで海外から輸入されたものを使用することについては別の問題があります。輸入再生プラスチックには、廃車のトレーサビリティ、つまり追跡可能性が確保されていないものが含まれることです。トレーサビリティが確保できないものを使用してしまうと、品質が確保できないことや、日本の解体業者の選別作業に対するモチベーションを下げてしまう可能性があります。この考え方は、政府(経済産業省、環境省)の関係者とも共有しており、当社は当面の間、日本国内で販売された新車の自動車(海外メーカー製も含む)に限定してリサイクル対応を行う方針です。
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