エタノールは、石油から製造されるものとバイオマスから製造されるものがあり、現状製造されているほとんどがバイオマスから製造されたバイオエタノールです。バイオエタノールは、植物に含まれる糖を原料に、発酵や蒸留などのプロセスを経て製造される再生可能な化学物質です。原料として、主にサトウキビやトウモロコシなどの植物の可食部(可食バイオマス、第一世代エタノールの原料)や、サトウキビの搾りかす(バガス)や木材などの植物の非可食部(非可食バイオマス、第二世代エタノールの原料)が挙げられます。バイオエタノールは、飲料用の他に主に自動車燃料やプラスチックの原料として利用されています。
バイオエタノールは再生可能な資源である植物原料から作られるため、石油などの枯渇資源の使用量が削減されます。
バイオエタノールの原料である植物は成長時に二酸化炭素を吸収するため、燃料として使用する場合、化石燃料よりも製造から最終処分までの二酸化炭素の排出量が少なく、環境負荷の低減に寄与します。
バイオエタノールはエネルギー源の多様化に貢献し、エネルギーセキュリティーを向上させます。
バイオエタノールまたはその誘導体であるETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)(※1)はガソリンと混ざりやすいため、ある程度の比率までであれば、既存のガソリン車を改造しなくても自動車燃料(ドロップイン燃料)として利用できます。
バイオエタノールの製造に使用される植物の一部は食料としても利用されるため、食料の供給不足や価格競争が発生する可能性があります。なお、サトウキビの搾りかす(バガス)や木材などの非可食植物(非可食バイオマス)を原料とするバイオエタノールの利用により、これらの課題が解決されることが期待されています。
バイオエタノール用の植物を大規模に栽培するためには多くの土地が必要となるため、森林伐採や生態系への影響を引き起こす可能性があります。
台風やハリケーン、干ばつ、異常高温などの気候変動により、バイオエタノールの原料となる植物の生産量が減少する可能性があります。この場合、バイオエタノールの生産量が減少し、価格が高騰する場合があります。
特に国内においては、バイオエタノールの原料となる植物を生産できる地域が限られています。例えば日本では、サトウキビの生産は、沖縄県と種子島などの鹿児島県南西諸島に限られています。
一部の国では、バイオエタノールをガソリンに混合して自動車燃料として利用しており、環境負荷を低減する代替エネルギー源として普及しています。例えば、ブラジルでは、ガソリンでもエタノールでも走行できる「フレックス車」の利用が7割を超えており、ガソリンスタンドでは、バイオエタノールが27%混合されたガソリンや、バイオエタノール100%の燃料を自動車燃料として購入することができます。また、日本でも、エタノールの誘導体であるETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)(※1)を7%程度まで混合したガソリンを自動車燃料として利用することができます。
航空業界での温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組みの一つとして、従来のジェット燃料に比べて製造から最終処分(燃焼)までのライフサイクル全体での二酸化炭素の排出量削減を目的にSAF(Sustainable aviation fuel)の利用が進められており、SAFの製造方法の一つにバイオエタノールから作る製法(ATJ:Alcohol to Jet)があります。
環境負荷の低減に寄与するため、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックを製造する際、従来の原料である石油などの枯渇資源の代替としてバイオエタノールの活用が進んでいます。
・バイオエタノールとは:トウモロコシ、サトウキビ、木材などの植物性原料から製造されるエタノールのことで、流通するエタノールのうち大半を占める。
・バイオエタノールの利点・課題:石油などの枯渇資源の使用量削減や二酸化炭素の排出量削減、エネルギーセキュリティーの向上などに貢献し、ガソリンとの混合容易性を持ち活用しやすい利点がある。しかし、食料との競合・価格競争、大規模な土地利用による生態系への影響、気候変動による供給の不安定性、原料植物の生産地域の制約などの課題も抱えている。
・バイオエタノールの実用例:主に、自動車燃料として直接または間接的にガソリンに混合されたり、プラスチックの原料として使用されたりしている。近年、航空業界では、二酸化炭素排出量を削減するための手段として、バイオエタノールを原料とした持続可能な航空燃料(SAF)の製造・使用も有望な選択肢として挙げられている。
※1 ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル):バイオエタノールとイソブテンから製造されるバイオ燃料のこと。
【住友化学の事例】
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