1. 用語の概要

マスバランス方式とは、ISO 22095(Chain of custody - General terminology and models)に定義され、「ある特性を持った原料(=下図中の「バイオ由来原料」・「サーキュラー(※1)由来原料」)」と「そうでない原料(=下図中の「その他」)」が混合される場合に、「ある特性を持った原料」の投入量に応じて、生産する製品の一部にその特性を割り当てることができる方式です。別名として「物質収支方式」や「マスバランスアプローチ」と呼ばれることがあります。

 

2. マスバランス方式の利点

①設備投資コスト削減が可能:

「ある特性を持った原料」のみを使用するセグリゲーション方式では専用の設備が必要ですが、マスバランス方式では既存原料とある特性を持った原料を混合使用できるため、既存設備を活用できます。これにより、大規模な追加の設備投資が不要となり、製造コストの削減につながります。また、本来建設時に発生するはずだった温室効果ガスも発生しません。

 

②従来品と同等物性を実現可能:

マスバランス方式では異なる特性の原料を混合使用しますが、それらの原料は同等物性の原料であることが前提で、また、既存の製造設備を活用するため、製造プロセスも変わりません。そのため、生産される製品を従来品と同等の物性で製造・管理することが可能です。

 

③スピーディに少量から提供が可能:

前述のセグリゲーション方式では専用設備への投資や原材料の大量確保などの準備が必要ですが、お客様のご要望に合わせて必要な原料を混合使用して、少量からでも速やかに製品を提供することが可能です。

 

④ユーザーの選択肢が拡大:

既存原料との混合使用により、ユーザーのニーズに沿って「ある特性を持った原料」の比率を変えることができるため、ユーザーの幅広い環境ニーズに応えることができます。

3. マスバランス方式の課題

①信頼性と透明性の確保の必要性:

マスバランス方式では、ある特性を持った原料の含有量が製品の表記と実含有量とで異なることから、サプライチェーン全体の可視化、透明化によるトレーサビリティの担保が求められています。その証明として、「ISCC PLUS認証(※2)」に代表される第三者認証の取得が必要となります。

 

②市場での認知度の低さ:

第2章で述べたメリットから、スピード感をもってサステナブルな製品を普及させるためにマスバランス方式は重要な手法ですが、化学品以外の身近な製品で既に活用されているものの、一般的な企業や消費者にはあまり知られていません。例えば、紙・パルプ産業におけるFSC認証、パーム油のRSPO認証、カカオ豆等のフェアトレード認証など、既に広く活用されています(※3)。化学製品におけるマスバランス方式の認知度を高めるために社会への啓発が必要となります。

 

③CFP(カーボンフットプリント)の算定:

マスバランス方式による製品のCFP算定においては、CO2排出量の削減効果を原料の特性の一つとして割り当てて計算することも可能ですが、世界的に標準化された算定手法やルールがまだ確立されておらず、統一された仕組みが待たれている状況です。

 

 

①マスバランス方式とは
マスバランス方式は、「ある特性を持った原料」と「そうでない原料」を混合し、「ある特性を持った原料」の投入量に応じて、生産する製品の一部にその特性を割り当てる仕組みです。

 

②マスバランス方式の利点
既存の設備を利用できるため、コスト削減や従来品と同等物性の実現ができます。また、既存原料との混合使用により、少量からでもスピーディにユーザーニーズに沿った製品を提供できます。

 

③マスバランス方式の課題
本方式では、サプライチェーン全体の可視化、透明化をするために第三者認証の取得が求められます。また、一般的な企業や消費者にあまり知られていないため、誤解を与えないような正しい知識の啓発活動が必要となります。

【住友化学の取り組み】

 

 

【ニュースリリース】

環境に配慮したエタノール由来ポリオレフィン製造に向けたエチレンの試験製造設備が完成
~サーキュラーエコノミーの確立を目指した新たな取り組み~

 

【ニュースリリース】

ISCC PLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)の取得について 

 

【資料ダウンロード】


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注釈

※1 サーキュラー:回収された廃棄物のこと
(回収されたバイオ系廃棄物を区別してバイオサーキュラーと呼ぶこともある)

 

※2 ISCC PLUS認証: 持続可能性および炭素に関する国際認証で、全世界で販売されるバイオマス原料やリサイクル原料を使用した持続可能な製品について、サプライチェーン上で管理・担保するもの。この認証ではマスバランス方式の適用が認められている。

 

※3 例えば、パーム油は主に東南アジア地域で栽培されている「油ヤシ」からとれる植物油で、マーガリンやパン・洗剤などの原料となります。このパーム油に関するRSPO認証においては、持続可能な栽培方法であると認証された認証農園の「油ヤシ」100トンと、非認証農園の「油ヤシ」50トンを混ぜて150トンのパーム油を作った場合、「マスバランス方式」を適用することで、販売業者は原料に使用した認証農園の「油ヤシ」分(100トン)を認証パーム油として販売することができます。よって、サステナビリティを重視されるお客様には「認証パーム油(100トン)」を、通常のパーム油をご要望のお客様には「非認証パーム油(50トン)」を販売するといった柔軟な対応が既に可能となっています。