1章. 「なぜ今、ケミカルリサイクルなのか」——マテリアルリサイクル・CCUとの違いを比較

——プラスチックの資源循環を実現するためのアプローチには、さまざまな手法がありますが、化学産業において注目されている「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「CCU(Carbon Capture and Utilization:炭素回収・利用)」について簡単に教えてください。

 

野末:まずマテリアルリサイクルとは、化学的な変化を伴わずに溶融・再成形のみでプラスチックを再利用する手法です。エネルギー消費が少ない一方、材料の劣化や汚染物質の残留により、バージン品(石油等の新品原料から製造した製品)と同等の品質には戻せないという課題があります。そのため、植木鉢やパレットなど品質要求が低い用途への「ダウンサイクル」(品質が下がった用途への転用)が現実となっています。

 

例えば、食品のパウチ。洗えば残留物はきれいに落ちると思われがちですが、実はプラスチックの内部まで染み込んだ成分は物理的に取り除くことができません。目には見えなくても、素材の厚みが変わるほど染み込んでいることもあります。そのためマテリアルリサイクルでは、最低限の機能が確保できていれば十分な用途へと「ダウンサイクル」されることが多くなります。

マテリアルリサイクルの説明

 

野末:次に、ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックを化学的に分解し、モノマーなど原料レベルにまで戻してから再重合する手法です。プラスチックを構成する最小単位まで分解・精製するため、得られる製品はバージン品と同等の品質になります。これにより、同じ用途に繰り返し再利用する「水平リサイクル」(品質を落とさず同等用途で循環させること)が実現できます。一方、化学的変換に要するエネルギー・コストはマテリアルリサイクルより高くなる傾向があります。

 

先ほどのマテリアルリサイクルに対して、ケミカルリサイクルは「プラスチックを分解してから作り直す」方法と言えます。

 

最後のCCUは、カーボンリサイクルの手法の1つで、廃棄物の燃焼などで発生したCO₂を回収し、化学品へ変換するカーボンリサイクル技術です。すでに排出されたCO₂を活用できる点が特長ですが、変換に膨大なエネルギーと水素を要し、水素の調達コスト・安定供給が課題として残ります。本格的な普及にはまだ時間を要する技術です。なおバイオマスの活用も、植物が大気中の二酸化炭素を吸収して育つという性質を利用する点で、カーボンリサイクルの一形態と言えます。

資源としてのプラスチックの循環

資源としてのプラスチックの循環

出典 CLOMA(Japan Clean Ocean Material Alliance)「CLOMA VISION 2.0」

 

——3つの手法を比較したとき、ケミカルリサイクルはどのような位置づけになりますか?

 

野末:ケミカルリサイクルは、日本において資源循環を比較的早期に実現し得る有力な手法の1つであるというのが私たちの認識です。

 

例えば、マテリアルリサイクルでは、再生品の品質の低下など、カバーできる用途に限界があります。品質要求が厳しい用途にもリサイクル材を取り入れていく必要がある中、現状のマテリアルリサイクルだけではリサイクルの適用率をこれ以上あげるのは難しいと考えています。一方、CCUという選択肢もありますが、水素の調達という課題があります。

 

——こうした取り組みは、経済安全保障の観点からも注目されているとも聞きます。

 

野末:おっしゃる通りで、プラスチックをはじめとする化学品の原料であるナフサの安定調達が日本全体の課題として改めて意識されるようになりました。ナフサは輸入の約7割以上を中東に頼っており、供給が途絶えると産業全体に影響が及びます。その意味で、住友化学が取り組む、従来ナフサから製造されてきたプラスチック原料のオレフィンを廃プラスチックから製造するケミカルリサイクル技術や、バイオマス由来のエタノールから製造する技術は、環境への貢献にとどまらず、国内で原料を循環・調達できるという経済安全保障上の役割も担い得ると考えています。

 

2章. PPWR・ELV規制をチャンスに変える——再生材利用義務化でマスバランス方式が鍵になる理由

——ケミカルリサイクルへの期待が高まる背景には、規制の動きも関係していますよね。

 

野末:プラスチックの再生材利用を義務付ける規制によって、リサイクル材の需要が創出されている側面は大きいと感じています。特に、この分野では欧州が先行しています。

 

2025年2月に正式発効し、2026年8月12日より主要条項が適用開始となるEUの「PPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation)」は、EU域内に流通するすべての包装に対して一定割合の再生材使用を義務付けています。プラスチック包装については、2030年1月1日以降、包装の種類に応じた最低リサイクル含有率(食品接触用以外のプラスチック包装:35%など)が課せられ、違反時は是正命令・販売禁止等の措置が取られます。

 

さらに、自動車分野のリサイクル材使用率を規定する「ELV規制(Regulation of end-of-life vehicles)」も暫定合意に達するなど、具体的な数値目標を定めた規制が整備されています。こうしたルールをつくることで市場を生み出していくのが、欧州の進め方です。

 

日本でも、2026年4月に施行され、2027年6月には計画提出が義務化される「改正資源有効利用促進法」により、同様の動きが進んでいます。自動車・家電・プラ容器包装など対象製品を一定量以上製造・輸入する事業者には「再生プラスチック利用計画」の提出(2027年9月末〜)と実績の定期報告(2028年度〜)が義務化されました。現時点では計画未達への罰則はないものの、再生材使用率義務化への移行が明示されており、企業としての姿勢が問われる段階へと入ってきているのは確かです。

規制対応・インタビュー写真

 

——製造業者からすると、こうした規制は制約とチャンス、どちらの側面が強いと思いますか?

 

野末:チャンスだと思います。資源は有限で、いずれ枯渇してしまうからこそ、循環型経済への移行は避けられない状況です。こうした制約があるからこそ、新しい技術やインフラが求められます。競争力のあるものをどう開発するか——そういう世界に身を置けること自体、好ましい状況だと私は捉えています。

 

——こうした規制への対応を進める中で、「マスバランス方式」という手法が注目されています。どのような仕組みなのかを教えてください。

 

野末:簡単に言うと、リサイクル原料やバイオマス原料を既存の製造プロセスに一定割合混ぜ、投入した分の環境価値をそのプロセスで生産された製品のうち任意のものに割り当てられる仕組みです。

 

例えば、10万トンのプラスチック製品を製造するうち、2万トン分をリサイクル原料で投入したとしましょう。その2万トン分の環境価値を、顧客が欲しいと言っている製品に集中して付与できるのが、マスバランス方式です。

 

つまり、この例では、実際の製造ラインで2万トン分のリサイクル原料が混ざっていたとしても、原料投入した割合までは「100%再生可能原料(以降、リニューアブル)由来」として市場に出すことができます。逆に言えば、残りの製品は「完全石油由来」として扱われます。この仕組みによって、リニューアブル製品を求める顧客のニーズにピンポイントで応えられるようになります。

様々なマスバランス方式

様々なマスバランス方式

出典 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和5年度バイオプラスチック及び再生材利用の促進に向けた調査・検討委託業務 報告書」をもとに当社作成

 

——製造業者がマスバランス方式を採用するメリットは何でしょう。

 

野末:最大のメリットは、既存の設備を活用できることです。廃プラスチック専用の新設備を一から建設しようとすると、精製工程も含めてコストが膨大になり、最終製品の価格が市場に受け入れられる水準を超えてしまいます。

 

マスバランス方式を採用すれば、製造側はコストを合理化できます。また、川下のメーカーにとっても品質はバージン品と同等であるため、再生材利用の目標に対して製品設計を行いやすくなります。

 

3章. 住友化学のケミカルリサイクルは「品質」にこだわる——熱分解・ガス化における廃プラ転換率の課題

——ここからは、「ケミカルリサイクル」の具体的な技術に踏み込んでお伺いしていきます。実際、ケミカルリサイクルにはどのような手法がありますか?

 

野末:ケミカルリサイクルにはいくつかの手法がありますが、ポリオレフィン(ポリプロピレン・ポリエチレンなど、食品包装や自動車部品に広く使われるプラスチック)を対象として、すでに商業化されている主な手法は「熱分解」と「ガス化」の2つです。

 

熱分解は廃プラスチックを300〜700℃で加熱してオレフィンや燃料、ワックスなどに分解する方法です。一方で、ガス化は700〜1200℃の高温で処理し、合成ガスを得る方法です。

ケミカルリサイクル 熱分解・ガス化の説明

 

——ただ、現状の熱分解には、課題もありますよね。

 

野末:現在の熱分解の課題は、化学原料への転換率が低い点にあります。熱分解では、廃プラスチックをいったん油化し、その油をナフサクラッカーに投入しますが、さまざまな成分が混ざった油が生成されるので、化学原料に戻せるのは廃プラスチック全体の30〜40%程度に留まり、残りの大部分は燃料用途に回ってしまうのが現状です。

 

先ほどご紹介したマスバランス方式の計算ルールとして、欧州では「燃料除外方式」が有力視されています。これは燃料用途に回る成分の環境価値を、化学品に付け替えることを認めないルールです。そのため、転換率が低いほどリサイクルされた化学品として認定できる割合が減り、結果としてコスト競争力を失います。この転換率をいかに高められるかが、ケミカルリサイクル普及の鍵を握ります。

 

住友化学が独自に開発した触媒技術を使うと、ポリオレフィンをその原料であるオレフィンに選択的に分解することが可能です。その結果、化学原料への転換率を60〜70%以上に高められます。転換率の向上は、製品品質の安定化だけでなく、マスバランス方式に基づくリサイクル認定量の増加を通じてコスト競争力にも直結します。

 

——こうした課題がある中、ケミカルリサイクルの価値はどこにあるのでしょうか?

 

野末:最も大きいのは品質面です。ケミカルリサイクルは水平リサイクルのハードルを下げられるとお話ししましたが、製造業者の視点で見ると、その理由はより切実です。

 

例えば、日用品を扱うメーカーにとっては、トレーサビリティがどれだけ発展しても、バージン品とリサイクル品とでは意味合いが大きく異なります。不純物の影響を考えると、いくら管理されていても「何が入っているのか分からない」という不安が拭えないからです。

 

ケミカルリサイクルであれば、プラスチックをモノマーレベルまで分解・精製した上で改めて重合するため、バージン品と同等の品質が得られます。そのため、これまでと同じ用途で安心してプラスチックを利用できます。これは製造業者にとって、非常に大きな強みです。

 

4章. 目指すは2030年代のケミカルリサイクルプラント商業化

——こうした価値を踏まえた上で、数ある環境対策の中で、住友化学がケミカルリサイクルに全力で取り組む理由を教えてください。

 

野末:ケミカルリサイクルが抱える課題に、私たちが応えられると確信しているからです。ケミカルリサイクルには夢しかないように思えますが、実は大きな課題が2つあります。1つは先ほどお話しした転換率の低さ。もう1つは間口の狭さ、つまり「処理できる廃プラスチックの範囲が限られている点」です。

 

現在のケミカルリサイクルでは、比較的きれいな廃プラスチックでないと扱えません。既存の手法では、ナフサクラッカーに投入する油の品質基準が非常に厳しく、原料の選別コストが高くなってしまうためです。その結果、処理できる量が増えにくいという問題があります。

 

こうした課題に対して、間口を広げて廃プラスチックを集め、かつ高い割合で化学原料に戻す技術が必要です。この社会課題に対して私たちがソリューションを提供できると信じているからこそ、全力で取り組んでいます。

 

——やはり、総合化学メーカーとしての使命感もあるのでしょうか?

 

野末:そうですね。私たち総合化学メーカーは、これまで石油由来の原料を調達してプラスチックを製造し、社会に供給してきました。今後、持続可能性が強く問われる中、生産者として、製品を届けた後のことまで責任を持って取り組んでいくのは必然だと考えています。同時に、長年にわたりプラスチックを供給してきたからこその技術や設備の蓄積、知見があります。これらがあるからこそ、ケミカルリサイクルという形で社会に貢献できるチャンスを得られていると思います。

 

——最後に、ケミカルリサイクルの社会実装に向けた展望を教えてください。

 

野末:現在はパイロット設備での検証段階ですが、開発中の技術を2〜3年以内に完成させ、2030年代には商業規模のプラントを稼働させたいと考えています。実証レベルではなく、事業として成り立つ規模のプラントを立ち上げることが目標です。2030年代というタイミングは、国内の法規制や市場の立ち上がりが想定される時期に重なります。社会が循環循社会に向かう流れに合わせ、最速で意思決定を行い、確かな貢献ができるよう動いていきます。

野末部長インタビュー写真

 

前編となる本記事では、資源循環の全体像とケミカルリサイクルの本質的な意義をお伝えしました。

後編では、炭素資源循環において住友化学が検討する技術の詳細と社会実装へ向けた道筋に迫ります。

記事をもっとよく理解するための情報

この記事で取り上げたケミカルリサイクルやマスバランス方式など、住友化学の炭素資源循環への取り組みについては、以下の関連サイト・関連記事もあわせてご参照ください。

 

【関連サイトリンク】

コラム「エタノールtoポリオレフィン」

 

動脈×静脈企業連携コラム

 

ケミカルリサイクル用語集

 

プラスチック資源循環促進法用語集

 

 

【炭素資源循環情報リンク】

 

 

 

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2026年6月作成