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◆この記事を読んでわかること: ・アクリル樹脂がケミカルリサイクルに適している理由と住友化学の技術 ・新居浜市との「MICANプロジェクト」が示したアクリル樹脂の資源循環の可能性 ・住友化学が開発する接触分解技術の特徴とポリオレフィンのケミカルリサイクルにおける優位性 ・エタノールから直接プロピレンを製造する新製法とバイオマス由来原料が持つ可能性 ・Meguriブランドを通じた循環社会の実現に向けた住友化学の思いと展望 |
◆目次:
1章. 小さな市場に、大きな可能性。40年の積み重ねが拓くアクリル樹脂のリサイクル
2章. 新居浜市との「MICANプロジェクト」から見えた資源循環への手応え
3章. 廃プラ転換率60〜70%を実現:住友化学の接触分解技術が変えるポリオレフィン循環
4章. エタノールからプロピレンを直接生成——植物由来の原料が変えるプラスチックの未来
5章. 「技術だけでは回らない」求めるは社会価値と事業性の両輪を共有できる仲間
プラスチックの資源循環を実現するための技術は、今どこまで来ているのか。そして、それを社会に実装するために何が必要なのか。
住友化学株式会社 炭素資源循環事業化推進室 部長の野末は、プラスチックの資源循環に向け、最前線で取り組む一人です。今回、野末にその取り組みと展望を前後編にわたって聞きました。
後編となる本記事では、住友化学が実際に取り組む具体的な技術とその社会実装への道筋に迫ります。アクリル樹脂からポリオレフィンのケミカルリサイクル、そしてバイオマス由来のエタノールの活用まで——話の中で見えてきたのは「技術だけでなく、仲間とともに炭素資源循環の輪を広げていこう」とする強い意志でした。
——後編では、具体的な技術についてお伺いしていきます。まず、「アクリル樹脂のケミカルリサイクル」について教えてください。
野末:アクリル樹脂は、プラスチックの中でも特にケミカルリサイクルとの相性が高い素材の1つです。一般的なプラスチックは、熱を加えると高分子鎖がランダムな位置で分解され、さまざまな種類の分解物ができてしまいます。
一方でアクリル樹脂は、熱をかけるだけで高分子が最小構成単位であるモノマーに分解されやすい性質を持っています。また、アクリル樹脂をメタクリル酸メチル(以降、MMA)モノマーに変換する収率は、一般的なプロセスでも90%を超えます。このように、高い効率で元の原料に戻せる点が、アクリル樹脂がリサイクル素材として注目される理由です。

アクリル樹脂のケミカルリサイクル特性
——市場規模や経済的な可能性についてはいかがでしょうか?
野末:世界におけるアクリル樹脂(PMMA)の市場規模は200〜250万トン程度(原料MMAを含めると300〜400万トン規模)で、プラスチック市場全体の4億3,000万トン近くと比べると、規模感は小さいのが実情です。
ただし、アクリル樹脂が使われている用途は、品質要求が非常に厳しいものが多いのが特徴です。例えば、水族館の水槽やレンズなど、高い透明性や光学特性が求められる用途で使われています。
こうした用途では、マテリアルリサイクルで元の品質水準に戻すことは難しく、ケミカルリサイクルだからこそ実現できる可能性があります。まさにアクリル樹脂は、ケミカルリサイクルで元に戻すべき用途が多い素材だと言えます。
——アクリル樹脂のケミカルリサイクルにおける、住友化学の技術の歩みについて教えてください。
野末:住友化学は1984年からMMAモノマーやポリマーのアクリル樹脂の製造に取り組んでおり、品質要求や精製プロセスに関する知見を長年にわたり蓄積してきました。
共同開発のパートナーである株式会社日本製鋼所は、混練・成形に用いる二軸混錬押出機「TEX(テックス)」を有する、高い技術力を持つメーカーです。同社は1997年以降、この押出機技術をプラスチックの連続分解へと応用する検討を重ねてきました。
住友化学も樹脂製造において長年日本製鋼所の押出機を活用してきた経緯があり、そうした縁がこの共同開発につながっています。本プロジェクトは2021年に本格始動し、2022年にはパイロット設備が完成しました。
押出機はスクリューの回転によるせん断発熱で効率的に熱を生み出せるため、アクリル樹脂の分解に必要な熱を安定的に供給できるのが特長です。さらに、分解して得られたモノマーを原料として使用可能なレベルまで精製するプロセスにも、これまでの知見が活かされています。

異業種ネットワークの活用によるイノベーション・開発期間の短縮
——アクリル樹脂のケミカルリサイクルの社会実装の第一歩として、愛媛県の新居浜市と「MICAN(みかん)プロジェクト」に取り組んでいると伺いました。本プロジェクトの立ち上げ背景を教えてください。
野末:リサイクルは変換技術だけで解決できるものではなく、原料の調達、選別、再生品の受容といったバリューチェーン全体での連携が不可欠です。いわば「調達・技術・マーケット」の3つがそろって初めて循環は回り始めます。
例えばアクリル樹脂は単一素材で使われることが多い一方、ポリスチレンやポリカーボネートと混在しているケースもあり、回収後の選別が重要になります。また、回収自体も廃棄物事業者との連携なしには成り立ちません。こうした課題に向き合う実証の場として立ち上げたのが、新居浜市と進める「MICANプロジェクト」です。
——具体的に、「MICANプロジェクト」とは、どのような取り組みだったのでしょうか?
野末:地域と連携し、使用済みアクリルを回収から再生・再利用までつなぐ実証プロジェクトです。着目したのは、コロナ禍で普及し、収束後に大量廃棄が見込まれた飛沫防止板でした。透明なアクリルが多く使われていたことから、リサイクル資源として活用できるのではないかと考えたのが出発点です。
新居浜市と連携して回収を行い、合計で約2.4トン、739枚の飛沫防止板を集めました。廃棄物処理企業とも協力しながら、実証設備でアクリルモノマーへ再生しました。さらに、製造したリサイクル製品を市内の小学校・特別支援学校に通う5,871名の児童にキーホルダーとして進呈することで、子どもたちに資源がどのように循環するのかを実感してもらう認知活動にもつなげました。

MICANプロジェクトの全体像
——この取り組みを通じて得られたものは何でしょう。
野末:回収・選別・再製品化・普及までを一貫して実証できたことが大きな成果です。ここで得られた知見は今後の取り組みにも活かせるものであり、地域と連携した循環モデルの実証という意味でも大きな一歩になりました。同時に、関係者と一体となってプロジェクトを完結させるという意味で、仲間づくりの第一歩にもなりました。
——次に「ポリオレフィンのケミカルリサイクル」についてお伺いします。ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系プラスチックのケミカルリサイクルには、従来から熱分解などの手法がありますが、住友化学が進める「接触分解によるオレフィン製造(※1)」には、既存の手法と比べてどのような特徴と優位性があるのでしょうか?
野末:この技術には、大きく2つの強みがあります。1つは幅広い廃プラスチックを扱えること、もう1つは転換率を大幅に高められることです。
住友化学の手法では、廃プラスチックを発生拠点の近くで油化し、その分解油を製造拠点に運び、触媒でオレフィンに変換することを想定しています。この手法の特徴は、シンプルな方法で油化した分解油を原料とする点です。固体のままでは輸送効率が悪い廃プラスチックも、排出地の近くで油化することで効率よく運べる上、品質も均一化しやすくなります。
また、従来の熱分解では、化学品原料に使用可能な成分への転換率は30〜40%程度に留まり、残りは主に燃料として使用せざるを得ませんでした。燃料利用分はリサイクルとはみなされないため、炭素循環を進める上では不利となります。
これに対し、住友化学が開発した接触分解技術では、廃プラスチックを直接原料として約60%、また熱分解油を原料とした場合は約70%の高収率でオレフィンモノマーを得ることが可能です。処理コストがかかっていた廃プラスチックも原料として活用できる道が開けます。

接触分解によるオレフィン製造技術
出典 ファインケミカル2017年12月号をもとに当社作成
——技術的な強みを活かして、今後どのようにバリューチェーンの拡大や社会実装を目指していくのでしょうか。
野末:バリューチェーンの拡大と並行して、業界のルールづくりを進めていくことが重要だと考えています。
廃プラスチックの排出源は多様で、中間処理事業者に集まるものや製造過程で生じる端材、すでに油化されているものなど、さまざまな入口があります。そうした中で、「廃プラスチックの排出量が多く、この材料を扱えなければ資源循環が進まない」という領域から適用の可能性を検証し、うまくいった事例を起点にパートナーを広げていきます。
こうしたバリューチェーンの構築と併せて取り組みたいのが、油の規格づくりです。品質に応じた階層を整理し、業界全体で共通認識を形成することで、原料としての活用範囲を広げていく必要があります。
そのためにも、油を扱う事業者や原料を供給する事業者とコンソーシアムを立ち上げ、ルール整備を進めていきたいと考えています。市場を担うプレーヤーとともに基盤を整え、社会実装につなげていくことが今の目標です。
——ここまでケミカルリサイクルについてお伺いしてきましたが、住友化学はバイオマス資源の活用にも取り組んでいると伺いました。エタノールから直接プロピレンを製造する新製法について教えてください。
野末:アルコール類からのオレフィン製造は、バイオマス資源の活用であると同時に、炭素資源を循環させるという観点でも重要な技術の1つです。
プロピレンはポリプロピレンの原料です。ポリプロピレンは世界で広く使われる主要な樹脂のため、プロピレンの需要も非常に大きなものがあります。
従来、エタノールからプロピレンを製造するには「エタノール→エチレン→プロピレン」という複数の工程が必要で、設備が複雑化するという課題がありました。これに対し、住友化学が開発しているのは、エタノールを原料として一度のプロセスでプロピレンを生成する技術です。工程数を大幅に削減できるため、設備構成の簡素化や投資コストの低減につながると考えています。
——そもそも、なぜエタノールに着目しているのでしょうか?
野末:炭素循環に適した原料であり、かつ大規模に供給できるためです。エタノールは大部分がバイオ由来で、サトウキビやトウモロコシなどの植物資源から製造できます。植物は大気中の二酸化炭素を固定化して成長するため、温室効果ガスの削減効果が期待できます。さらに、年間約1億2000万キロリットル近くが生産されており、供給安定性にも優れています(※2)。
加えて、世界で年間4億3,000万トン近く生産されるプラスチックのうち、1.9億トン以上をポリエチレンとポリプロピレンが占めており、ポリプロピレン単体でも8,100万トンを超えます(※3)。
プロピレンをバイオ由来で効率よく製造できるかどうかは、プラスチック全体のバイオ化を進める上での鍵となることからも、エタノールからプロピレンを直接生成する技術は、その有力な解決策の1つとして期待されています。
——今後の展望について教えてください。
野末:現在、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け、2025年7月より千葉工場でパイロットスケールの設備を稼働させながらプロセス開発を進めています。ベンチスケール試験では目標オレフィン収率80%を達成できており、スケールアップを目指します。
事業化の判断は、バイオマス由来原料が法規制の中でどのように位置づけられるか、またその利用を促す制度が整備されるかに左右されますが、市場環境の立ち上がりを見極めながら、2030年頃までに商業生産と技術ライセンスの提供による商業化を目指しています。
併せて、業界団体を通じてバイオマスが炭素循環における重要なパーツであるという声を出し続けるなど、市場形成に向けた取り組みも並行して進めていきます。

アルコール類からのプロピレン製造技術
——現在、Meguri(めぐり)ブランド製品を利用したアクリルジュエリーや自動車のフロントグリルなどが市場に出ています。こうした製品が流通することで、消費者やバリューチェーン全体にどのような変化をもたらすとお考えですか?
野末:手に取る方にとって、資源循環をより身近でわかりやすいものにできると考えています。Meguriというブランドは単なる製品名ではなく、循環を社会に広げていくための決意表明でもあります。
製品として世の中に広く流通していくことで、「こういう形で循環が実現できる」という認知が自然と広がり、その積み重ねがバリューチェーン全体の意識や行動の変化につながっていくと信じています。

資源循環型プラスチック製品ブランド「Meguri©」
——今後、社会全体として、炭素資源循環の実現に向けてどのような取り組みが重要になってくるのでしょう。
野末:出発点は、社会で使用されるさまざまな製品をリサイクルしやすい設計にすることです。再生しにくい製品では、どれだけ回収しても効率が上がりません。そのため、製品設計の段階から循環を前提にする必要があります。そして、その前提のもとで、廃棄時の適切な選別が機能することで、初めて資源として活かすことができます。
——社会実装を進める上での最大の課題は何だと思いますか?
野末:最も重要なのは、「集める仕組み」、つまりバリューチェーンの構築です。廃プラスチックを回収し、油化し、品質を整え、原料に戻すという一連のプロセスは1社だけでは完結せず、関係するプレーヤーが連携し、全体として効率的に回る仕組みをつくる必要があります。そのための仲間づくりと社会システムの構築が、最大の課題だと考えています。

社会全体での取り組みの重要性
——炭素資源循環をブームで終わらせず、社会の当たり前にしていくために、どのような思いを持つ人の参加が不可欠かお聞かせください。
野末:本気で社会を変えていこうという意思と、それを持続させるための事業性の両方を大切にできる人たちだと思います。資源循環は理想だけでは続きませんが、単なる利益追求でも成り立ちません。社会に価値を提供しながら、事業としても持続させていくという両立が必要です。
この考え方は、住友に古くから伝わる「自利利他 公私一如(じりりた こうしいちにょ)」という思想に通じるものです。明治時代、住友が経営する別子銅山から排出される亜硫酸ガスが農作物に深刻な被害をもたらしました。このガスを有用な硫酸・肥料へと変換する事業へ着手し、社会課題の解決と事業化を両立させました。これが住友化学の原点です。
現在のプラスチックの問題も、それと重なります。私たちはプラスチックを供給してきた立場として、その課題に責任を持ち、社会に貢献しながら事業としても成立させていく必要があります。その思いを共有できる仲間がバリューチェーン全体に広がることで、この取り組みは持続的に回っていくと考えています。
インタビュー後編となる本記事では、炭素資源循環において住友化学が検討する技術の詳細と社会実装へ向けた道筋についてお伝えしました。
前編では、資源循環の全体像とケミカルリサイクルの本質的な意義について、説明しております。併せてご覧ください。
※1 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業の支援により実施
※2 World Bioenergy Association 「Global Bioenergy Statistics Report 2025」
https://www.worldbioenergy.org/uploads/251118%20GBSR.pdf
※3 Plastics Europe「Plastics the Fast Facts 2025」
https://plasticseurope.org/knowledge-hub/plastics-the-fast-facts-2025/
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