◆想定読了時間: 約 13分 ・バイオマスプラスチック・リサイクルプラスチックの基本 |
昨今、環境問題への対応から、世界のブランドオーナーたちはバイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックの採用を積極的に進めています。
本記事では、ブランドオーナーたちがどのようにしてバイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックを導入しているかについて、その取り組みや背景をご紹介します。「バイオプラスチック」の導入は、環境への配慮を重視する企業にとって企業戦略の一環として重要な役割を果たします。
バイオマスプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源から製造されるプラスチックです。その種類は、生分解性があり最終的に二酸化炭素と水に分解されるプラスチックと、非分解性のプラスチックに分けられます。バイオマスプラスチックを活用することにより、石油などの枯渇資源の使用量削減や二酸化炭素の排出量削減などに寄与します。
詳細は用語集「バイオマスプラスチック」をご参照ください。
また、リサイクルプラスチックとは、使用済みのプラスチック製品を回収し、新たな製品の材料として再利用した製品のことです。リサイクルプラスチックを活用することにより、廃棄物の削減や資源の有効活用、二酸化炭素の排出量削減などに貢献できます。
詳細は用語集「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」をご参照ください。
日本のプラスチック国内使用量は年間約992万トン(2018年)であり、そのうち再生可能な有機資源から出来る非生分解性のバイオマスプラスチックは約4.1万トン(2018年)、生分解性バイオマスプラスチックは約0.4万トン (2018年)となっています。
バイオマスプラスチック製品の国内出荷量は、国産品と輸入品を合わせて約7.2万トン(2018年度)となっています。
2022年2月22日OECD報告書によると、世界では20年前の2倍のプラスチック廃棄物が発生しており、リサイクル(サーマルリサイクルを除く)されているのはわずか9%です。(実際には15%はリサイクルのために回収されていますが、そのうち40%は残渣として廃棄されています)
世界のリサイクルプラスチック生産量は、2000年の680万トンから2019年には2,910万トンへと4倍以上に増加しましたが、それでもプラスチック総生産量の6%に過ぎません。
一方、環境への配慮から、各国でリサイクル材活用を推進する規制(詳細は、4.2章を参照)が策定され始めており、今後、技術革新が進むと推測されることから、リサイクル率は増えると予測されます。
日本のプラスチック廃棄物のリサイクル方法は、サーマルリサイクル(※1)62%、マテリアルリサイクル(※2)22%、ケミカルリサイクル(※3)3%で、有効利用率としては87%です(2022年度)。現状はサーマルリサイクルが多いのですが、二酸化炭素の排出量削減や資源循環を目的として、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを推進する動きが出てきています。
具体的には、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が2022年4月に施行後、リサイクルしやすい製品設計や廃プラスチックの回収・資源化などを促進する取り組みが始まっています。(詳細は、4.2章を参照)
この章では、バイオマスプラスチックとリサイクルプラスチックに関する世界的に有名なブランドメーカーの取り組みについて紹介します。
P&G(※4)では、再生プラスチックや他の再生可能な素材(紙やバイオベースのプラスチックなど)の使用、外部連携を通じた廃棄物インフラの整備などを通じて環境対応を進めています。
具体的な2030年の主な目標値と2022年時点の進捗状況の一例は以下のとおりです。
なお、2022年度の再生プラスチック樹脂の使用量は10.1万トンであり、全体の樹脂におけるリサイクル樹脂の割合は14%となりました。
ネスレ(※5)は、すべての製品パッケージの埋め立て処分や環境への投棄を防ぎ、ごみのない未来を実現することを環境ビジョンとして掲げています。具体的な2025年の主な目標値と2023年時点の進捗状況の一例は以下のとおりです。
ほとんどのプラスチックは食品包装へのリサイクルが難しく、供給が限られています。そのため、ネスレは市場を創出するために、最大200万トンの食品グレードの再生プラスチックを調達し、2025年までにこれらの材料にプレミアムを支払うために15億スイスフラン以上(約2,560億円;換算レート171円/フラン)を割り当てることを約束しています。
この章では、バイオマスプラスチック・リサイクルプラスチックといった環境配慮型プラスチック製品に対する世界および日本の消費者の反応について紹介します。
PwC Japanグループ「サステナビリティに関する消費者調査2022」では、世界の消費者はサステナブルな商品の購入に積極的であることが分かります。
消費者庁「消費者意識基本調査」(2021年度)、における、環境問題や社会課題の解決のための実践度に関する質問で、「環境負荷や原材料の持続可能な調達に配慮した食品・商品を選択する」と回答した人は28%でした。
また、内閣府による「プラスチックごみ問題に関する世論調査(2022年度)」において、「普段の買い物の際、どのような条件が合えば、リサイクル製品や植物由来プラスチック製品などの代替製品を購入してもよいと思うか」を調査したところ、「価格・品質ともにこだわらず代替製品を購入」「品質が同等以上であれば、価格が高くても購入」すると回答した人は合計40.4%でした。
3章でご紹介した消費者の反応を受け、ブランドオーナーによる環境配慮型プラスチック製品の採用が進んでいます。この章では、ブランドオーナーによってバイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックの採用が進んでいる理由をさらに掘り下げて解説していきます。
従来のプラスチック製品は、石油などの化石資源を原料にして作られています。バイオマスプラスチックの原料である植物に含まれる炭素は、植物が成長過程において取り込む大気中の二酸化炭素(CO2)に由来します。従って、従来の石油などの枯渇資源から製造されるプラスチックの代替としてバイオマスプラスチックを使用することで、製造から最終処分までの二酸化炭素の排出量を削減し、気候変動への影響を抑制することが期待されます。
化石資源は、いつか枯渇する恐れがある資源です。一方、バイオマスプラスチックは、再生可能な資源であるトウモロコシやサトウキビなどの植物や(廃)動植物油等から製造されます。これらバイオマスプラスチックの使用により、石油などの枯渇資源の使用量を減らすことができます。
また、廃棄されるプラスチックをリサイクルすることで、石油などの枯渇資源を再利用でき、結果としてその使用量を削減することができます。
各国で以下のような環境問題に対応する政策が整備され始めたことを受け、これに対応するためのバイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックの採用が進んでいます。
日本では「プラスチック資源循環戦略」の下で、環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で、「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定しました。
このロードマップでは「再生材・再生可能資源(紙、バイオマスプラスチック等)への適切な切り替え」などの4つの基本原則、「プラスチックの資源循環」などの4つの重点戦略が定められており、2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入することが示されています。
日本では、2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、プラスチック廃棄物の排出の抑制や再資源化に資する環境配慮設計、ワンウェイプラスチックの使用の合理化、プラスチック廃棄物の分別収集・自主回収・再資源化等に関する方針が示されました。詳しくは用語集「プラスチック資源循環法」をご参照ください。
2023年にEU理事会と欧州議会は包装廃棄物の削減に関する新法で暫定合意し、その中では、3年後にバイオプラスチック包装の技術開発の状況を評価し、同プラスチックの使用要件などの検討を行うことが盛り込まれています。
欧州では、PPWR (包装・包装廃棄物規則)において、以下のとおり、2030年1月以降のプラスチック包装におけるリサイクル材最低含有量が定められています。(2028年1月1日までに評価を行い、必要であれば以下割合を緩和する委任規則を制定予定。)
また、包装に含まれるリサイクル材は、EU域内で収集された、又はEUと同等基準の第三国で収集されたものを使用しなければならないと定義されています。
さらに、2023年7月に発表された自動車設計・廃車(End-of-Life Vehicles:ELV)管理における持続可能性要件に関する規則案において、「部品の再利用や回収を促進する車両設計の推進」や、「新車生産時に25%以上の再生プラスチックの利用(うち廃車由来25%)」などが示されました。
米国農務省(USDA)は、バイオマス由来製品の市場の発展と拡大の支援を目的として、連邦政府機関や請負業者に、USDAに認定された、バイオマス度の最低基準を満たす製品を調達する義務を負わせる制度を運用しています。
また、2023年3月には、バイデン政権が今後20年以内にプラスチックの9割をバイオマス由来に切り替えるための振興策を検討していることも報道されました。
米国では、国家リサイクル戦略において、2030年までにリサイクル率を50%にすることが目標に掲げられました。また、シアトル市、ワシントンDC、ニューヨーク市は使い捨て発泡スチロール食品容器及び特定のプラ製容器の使用を禁止し、ワシントンDCにおいては有償・無償問わず飲食を提供する全ての企業・団体まで対象を拡大しています。
中国では、2021年の「第14次5カ年計画・循環経済発展計画」において、廃プラスチックのリサイクル強化や、プラスチック廃棄物の埋め立て削減などの施策が盛り込まれました。加えて、2022年「プラスチック廃棄物・汚染防止技術基準」により計画が具体的に基準として示され、国内の廃プラスチック業界は厳格な規制を受けることになりました。
バイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックの採用は、環境問題への対応(二酸化炭素の排出量削減や化石等の枯渇資源の使用量削減など)や各国のバイオマスプラスチック・リサイクルプラスチック活用推進等の環境政策への対応、消費者のサステナブルな製品への関心の高まりなどから様々な企業に注目されています。
住友化学ではバイオマスプラスチックやリサイクルプラスチックの事業化検討を進めています。詳細資料のご提供に関しては、以下のフォームからお問い合わせください。
※1 サーマルリサイクル:ごみ焼却場でプラスチック廃棄物を焼却し、その熱をエネルギーとして使用する方法です。この手法は、欧米などの海外諸国では一般的にはリサイクルとは認められず、「サーマルリカバリー」と呼ばれています。
※2 マテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル):廃プラスチックを化学構造の変化を伴わない形で製品素材として効率的に再利用するプロセスや取り組みを指します。
※3 ケミカルリサイクル(アドバンストリサイクル):異種素材や不純物を含む廃プラスチックを化学反応により低分子レベルまで分解し、さまざまな化学物質に転換したり、バージンプラスチックと同等の高品質なプラスチックに再生したりする手法を指します。
※4 P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社は、世界最大の日用品メーカーであり、洗剤、ヘアケア製品、化粧品、小型家電製品、ベビー用紙おむつなど、多数の事業を展開しています。
※5 ネスレはスイスに本社を置く世界最大級の食品・飲料メーカーであり、飲料、食料品、菓子、ペットフードなどの製造・販売を行う企業です。
この記事以外にも炭素資源循環の実現に向けた、様々な情報を本サイトで紹介しています。以下のリンクからご参照ください。
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