プラスチックの歴史は19世紀末のセルロイドやベークライトの発見に始まります。20世紀初頭に入ると化学合成技術の進歩によって本格的な産業利用が広がりました。1907年、アメリカの化学者レオ・ベークランドがベークライトの工業的製法を開発し、耐熱性・絶縁性に優れる世界初の完全合成樹脂として、電話機や電気部品、ラジオ筐体などに利用されました。
1920年代には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂などの合成樹脂が開発され、プラスチックは装飾品や日用品だけでなく、産業資材としての可能性も広がります。
その後、1930年代には石油化学技術の進展により、ポリエチレン(PE)やポリスチレン、合成ゴム、ナイロンといった素材の開発が加速しました。1938年にはデュポン社がナイロンを開発し、女性用ストッキングや歯ブラシ繊維として普及しました。第二次世界大戦ではプラスチックが軍服のボタン、航空機部品、パラシュート(ナイロン製)などに大量使用されます。
戦時中に培われた合成樹脂や石油化学の技術は、戦後本格的に産業利用されます。アメリカでは消費者向け製品(家庭用品や包装材など)にプラスチック素材が飛躍的に浸透しました。石油化学産業は1950年代から1970年代にかけて爆発的成長を遂げました。エチレンやプロピレンを原料とするPE、ポリプロピレン(PP)をはじめ、合成ゴム、農薬・肥料などが多方面に供給され、特に自動車、包装、農業、建設分野で需要が急増しました。
日本においても1958年には国内初の石油化学コンビナート(岩国・愛媛)が完成。PEやPSの国産化が進行し、1960年代には石油化学製品の生産額が輸入額を上回るまでに成長しました。
また、1960年代に入りプラスチックの世界の生産量はアルミニウムを凌ぐ素材となり、成形技術やマーケティングの成功で、住宅、家電、日用品など幅広い分野で普及しました。その成長率は、同時期の鋼鉄産業の約4倍にも上りました。

出典 Our World in Data : Plastic Pollution
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・Science History Institute:History and Future of Plastics
・JICA:Policy Learning for Industrial Development and the Role of Development Cooperation, Chap.4
以上のようにプラスチックは、私たちの生活に欠かせない存在となりました。その利便性や低コスト、軽量性から、包装材や消費財の容器、日用品から工業製品まで、あらゆる分野で広く使用されています。
しかし、経済発展に伴い、プラスチックの消費と廃棄が増大し、それと共に有害物質やCO2排出等、環境負荷の面で課題が顕在化しています。
現代の大量消費社会において、プラスチック製の包装材や容器は、商品の輸送や保存、販売促進に欠かせない要素となっています。食品や飲料のパッケージ、化粧品の容器、通信販売での緩衝材など、多くの製品に種々のプラスチックを積層したフィルムや立体形状に成形された成形品が使われています。これらは軽量で衛生的である反面、多くが一回のみの使用にとどまり、使用後は大量の廃棄物となっています。
特に、異なる種類のプラスチックを複合化した成型品や、多層構造のフィルムは分別の難しさからリサイクルしにくく、現状では焼却処理や埋立処分が主流となっています。焼却すればエネルギー回収は可能ですが、CO₂排出や微量有害物質の発生が避けられません。
世界で廃棄された累計プラスチック量(2015年まで)は約63億トンに及びます。そのうちリサイクルされた量は9%です。12%が焼却され、残りの多くは主に埋立処理がされてきました。近年2019年の年間プラスチック廃棄量は約3億5300万トンで、2000年時点の約2倍に増加しています。不法投棄により適切に処理されずに環境に排出されるプラスチックも多く、2019年には廃棄されたプラスチックの22%にあたる7,900万トンが環境に排出されていると推定されています。その多くは陸上への投棄や不適切な焼却処理ですが、海洋や河川など水系に流出するものも600万トンに及びます。またプラスチック廃棄物の種類は、包装材・容器(約40%)、消費財(約12%)、自動車部品(約12%)、衣料品(約11%)となっています。
自然環境に排出されたプラスチックの最大の問題点は「自然分解されにくい」という性質にあります。ほとんどのプラスチックは化学的に安定しており、自然界の微生物が分解するには数百年以上かかると言われています。さらに、プラスチックの単純焼却は二酸化炭素や有害ガス(ダイオキシンなど)の発生源となる場合があり、気候変動や大気汚染の一因ともなっています。

出典 Wikipedia : Plastic Recycling
多くのプラスチックは石油由来の高分子化合物であり、その製造や使用にあたっては可塑剤、安定剤、着色剤、難燃剤など多様な添加剤が使用されます。これらの中には、環境中で有害性を示す物質や、人体への影響が懸念される化学物質も古くは使用されてきました。
例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂に使われていた一部の可塑剤(フタル酸エステル類)は内分泌攪乱作用が指摘され各国で規制されています。
ポリカーボネート樹脂の原料であったビスフェノールA(BPA)はホルモン様作用による健康リスクが懸念されています。1990年代に哺乳瓶や飲料缶の内側コーティングからBPAが溶出し、乳幼児のホルモンバランスに影響する懸念が国際的に問題化され、EUやカナダでは乳幼児用哺乳瓶へのBPA使用が禁止。日本でも規制が進んでいます。
難燃剤として使用されている臭素系化合物は 家電や家具から徐々に揮散し自然界に蓄積され、北極圏のアザラシや北米のワシの体内からも高濃度で検出されました。また、臭素系化合物は、燃焼時に有毒な臭化ダイオキシン類を生成する可能性もあります。影響として甲状腺ホルモンの異常、神経発達への悪影響、発がん性の懸念。生態系への長期的影響も問題視されています。すでにストックホルム条約で「残留性有機汚染物質(POPs)」に指定され、世界的に製造・使用が規制されています。
このように、現在では最新の化学的知見に基づいた規制が進んでいますが、規制以前の製品が現在まで継続して使用されている場合、劣化や廃棄後の分解・燃焼により有害な化学物質が環境へ放出される可能性があります。こうした化学的リスクは、プラスチックの物理的な廃棄物問題と並ぶ課題です。
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・経済産業省:⽶国及びEU等における内分泌かく乱物質の規制動向
・Los Angeles Times:Polar Bears Face New Toxic Threat: Flame Retardants
プラスチックはその大部分が石油や天然ガスを原料とするため、製造段階で大量のこれら化石原料を消費し、かつその製造に大量のエネルギーを必要とするため、温室効果ガスを排出します。石油由来のナフサからのモノマー製造、高分子化反応、成形加工に至るまでの工程は高エネルギー集約型であり、一般的なプラスチック(PE, PP, PVC, PET, PS など)は製品1トン当たり製造段階で、平均2.5トン(t-CO2(※1))のCO₂が排出されます。
さらに、包装材や容器など短期間で廃棄される製品の場合、製造時に投入された原料やエネルギーが有効活用される時間は非常に短いです。これらカーボンフットプリント(※2)の大きな「短命製品」の使用は、製品量あたりの温室効果ガスの排出量が多く大きな課題です。国際的には製造段階のCO₂排出削減や再生原料利用が進められていますが、依然としてバージンプラスチック(※3)の需要は高く、全体排出量は増加傾向にあります。
バージンプラスチックは見た目には便利で衛生的ですが、その背後で資源やエネルギーが「一瞬で消費される」構造になっている点が問題です。例えば、数時間しか使われないコンビニの弁当容器や通販の緩衝材も、製造には石油採掘→精製→化学プロセス→成形加工といった長い工程が必要で、そこで排出されるCO₂や有害物質は、実際の使用時間に比べて極端に大きい負荷になります。
また国立環境研究所(NIES)によれば、プラスチックが廃棄され、単純に焼却された場合に廃プラスチック1トンあたり2.64トン(t-CO2)のCO2が排出されるとされています。つまりプラスチック1トンあたり製造プロセスと焼却プロセスを合わせて約5トン(t-CO2)のCO2を排出することになります。プラスチックを製品として使用している時は認識しづらいですが、その製造時と焼却時にこれだけのCO2が排出されているのです。

他にもプラスチックの原料採掘や原料精製過程での大気汚染物質の排出、水資源の消費、製造時の廃液や副産物による水質汚染など、多面的な環境負荷が過去には存在していました。しかし現在では、化学プラントの製造プロセスの改良が進み、工業用水の循環利用や適切に管理された廃液処理等が行われるようになったことで、これらの負荷は大きく減少しています。
一方、廃棄の段階で、埋立地での長期残存や、地域によってはプラスチックの混在する廃棄物を野焼きするような処理が継続しており、不完全な分解、燃焼による微粒子が発生し生態系への影響が懸念されています。
さらに、プラスチック製品のリサイクル率は、世界全体で約9%であり、残りは焼却・埋立になっています。リサイクルを阻害する要因としては、添加物等の異種材料の混合、汚染、回収コストの高さなどが挙げられます。また国によってはまだプラスチックのリサイクルに関する制度・法律の整備が不十分であるため、焼却・埋立が続いています。
今後、プラスチックの環境負荷を軽減するためには、製品設計段階でリサイクル性を高める「デザイン・フォー・リサイクル」や、バイオマス原料由来のプラスチック、生分解性プラスチックの利用、リサイクル技術の向上が求められています。

プラスチックによる環境負荷を軽減するために、製品設計から使用済プラスチックの処理、再資源化まで多方面での対策が必要です。例えば以下のような取り組みが進められています。
できるかぎり使い捨てプラスチック製品の使用を減らす傾向にあります。レジ袋の有料化やストローの紙代替はその一例です。
反復使用できるリフィル製品や耐久性の高い容器を活用することで、廃棄量を減らしています。
ペットボトルやプラスチック容器を再び原料として利用する仕組みが各国で整備されています。ペットボトルのリサイクル率は高いですが、その他のプラスチック容器や製品のリサイクル率は依然として低いです。特に混合プラスチック・多層フィルム等や汚染されたプラスチックの処理は難題となっています。
植物由来の原料からプラスチックをつくります。植物は大気中のCO2を取り込んで成長するので、バイオマスプラスチックを焼却してもそのCO2は大気中に戻るだけです。したがって化石燃料からつくるプラスチックよりCO2の排出を抑えることができます。
またこのうちリサイクルの方法として大きく以下の2つがあります。
廃プラスチックを破砕・選別・洗浄・粒状化し再び製品として成形するリサイクルです。単一素材のプラスチックに適しています。
廃プラスチックを化学的に分解し、石油代替原料として再利用する技術が注目されています。これにより、バージン原料である石油等の使用量を減らすことが可能になります。

プラスチックによる環境負荷を軽減するための様々な方法
プラスチックの利便性を維持しつつ、環境負荷を低減するためには、複合的なアプローチが必要です。具体的には、①包装材・容器の軽量化・単一素材化によるリサイクル効率向上、②リユース容器や詰め替え製品の普及、③再生原料やバイオ由来樹脂の積極的活用、④製造工程での再生可能エネルギー導入や省エネ化、⑤有害化学物質の代替・削減などが挙げられます。
消費者側でも、過剰包装の回避、リフィル製品の選択、使用済製品の適正分別など、日常的な行動が改善につながります。行政や企業は、こうした取り組みを後押しする制度設計やインフラ整備を進めることが不可欠となっています。
制度面をみると、日本では「プラスチック資源循環促進法」により容器のみならずプラスチック製品のリサイクルを促進するしくみが進められています。EUではサーキュラーエコノミー(循環経済)という政策により、プラスチックの再資源化を法律で定めています。さらに世界的な動きとして、国連では、2022年、国連環境総会で「プラスチック汚染に関する国際条約」の策定を決定するなど、国際社会でも規制強化が進んでいます。
プラスチックは軽量で成形しやすく、耐久性やコスト面でも優れるため、現代社会のあらゆる分野で不可欠な素材となっています。しかし、その利便性の裏で大量消費により、廃棄物の増加やCO2排出、有害物質による生態系への影響などの環境課題が懸念されます。またプラスチックの原料である化石燃料の採掘には限りがあります。近年は国際的な規制や消費者意識の高まりを背景に、企業はプラスチック利用の見直しと循環型の仕組みづくりを迫られています。
今後求められるのは「資源循環型経済」への移行です。使用済みプラスチックや未利用の資源を回収・利用する仕組みを構築することが重要です。マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル技術の進展により、従来は困難だった混合プラスチックや汚れが付着したフィルム類の再資源化も現実的になりつつあります。加えて、リニューアブルな資源である植物由来のバイオマスプラスチックを使うことでも、炭素循環を実現できるようになりました。
これらの素材の使用や使用料の削減だけではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ資源循環設計もまた重要です。製造工程での歩留まり改善、製品設計段階からのリユース・リサイクル・リニューアブル前提の仕様策定、回収スキームの構築など、多角的な取り組みが求められます。
※1 t-CO2 : 温室効果ガスの排出量を表す単位。廃棄物1トン当たり何トンのCO2に相当する温室効果ガスを排出するかを表す。CO2 1トンは、体積では約509m2。
※2 カーボンフットプリント:製品やサービスのライフサイクル全体(原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄など)における温室効果ガスの排出量。様々な種類の温室効果ガスについて、同等の温室効果を示すCO2の量に換算した値で示す。
※3 バージンプラスチック:リサイクル原料を含まず、石油などを原料として化学反応を経て生成された新品のプラスチック
また、この記事以外にも炭素資源循環の実現に向けた、様々な情報を本サイトで紹介しています。以下のリンクからご参照ください。
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